元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、 渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。 毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。
遠慮のかたまり 以前、日本語教師の諸先輩方と一緒にお酒を飲む機会がありました。京都でのことです。 2時間くらい飲んだでしょうか。教育現場のこぼれ話をつまみにジョッキを傾けていると、誰かが「あ、遠慮のかたまりや」と呟きました。 その言葉を聞いた先輩方は、大皿を見ながら「ほんまや」と言っていますが、私には何のことか分かりません。 大皿には唐揚げが一つ、ちょこんと残っています。 「若いんやから、食べり」 と促され、唐揚げは私の胃袋に収まりました。「〝遠慮のかたまり〟って〝ラスイチ〟の方言とかですか?」 分からないことは何でも聞いてみる、が私のスタンスです。「えっ、方言なん?」 「みんな同じやろ」 …
「遠慮」はもともと、「相手の都合や迷惑をよく考える」ことを指します。 しかし、「遠慮する」と言った場合、多くは「よく考えた上で、何かをしない」ことを指します。 例1 上司にすぐに連絡をとりたかったが、深夜だったので、電話するのは遠慮した。 例2 先輩 「今晩、A君と飲みに行くけど、君もこないか?」 後輩 「すみません。今日はちょっと、遠慮しておきます」 例1の「遠慮した」は、遅い時間帯であることを考えて電話しなかった」という意味です。 例2の「遠慮します」は、誘いを断るときによく使いますね。本来、相手のことを色々考えて「○○しません」という意味ですが、実際には、自分は「○○したくありま …
「おかげ(さま)」は寺社仏閣へ祈願に行き、良い結果に繋がったとき、神仏に感謝して使われる言葉でした。 しかし、現在ではさまざまな場面で使われています。 例1 先生 「○○さん、進学おめでとう」 学生 「ありがとうございます。先生のご指導のおかげです」 ただ「ありがとう」と感謝の気持ちを言うのではありません。「あなたのおかげで」と言い表したほうが、相手の行為が強調されるため、より嬉しく感じるものです。 相手に対して感謝の心を持ち、表現することは、人と人の「つきあい」の中でとても大切なことです。日本人は日常の中で、こうした感謝の言葉を大切にしてきました。 次の例はどうでしょう。日常で …
日本語学校で教壇に立つ際、たとえば「遠慮」とはどんな意味か、という質問が出たとします。それをどう説明するか? 直接法(日本語で日本語を教える)で授業を行うにあたり、語彙をコントロールし、相手のレベルに合わせた日本語で説明することが基本であり、そのため各教師の力量が問われるところです。 あなたなら、どう説明しますか? とても一言で言い表すことができない意味が内包されているはずです。 たまたまお互いに英単語を知っていて、これは「refrain from ~」と説明できれば済むのでしょうか? 私の妻はカンボジア人なのですが、母語であるクメール語には「遠慮」の語彙がありません。一番近い表現であ …
〈日本語と日本人〉 周囲を海に囲まれた日本は、異民族に支配される歴史も、さまざまな外来民族が新国家を造るというような経験もせず、長きに渡って外界との交流が少ないまま、近代を迎えました。 世界には7000以上もの言語がある中で、日本語は約1億3000万人近く(世界順位13位)の話者がいるにも関わらず、そのほとんどが日本国内に限定されています。 それゆえ、日本語や日本文化に興味を示す外国人にとって、なかなか理解しにくい事柄が多く見られるのでしょう。 たとえば、「日本人は自分の本心をなかなか言わない」などと言われますが、本当にそうなのでしょうか。 仮にそうだとして、それはどうしてなのでしょうか。 …