だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第4回】遠慮(前編)

「遠慮」はもともと、「相手の都合や迷惑をよく考える」ことを指します。 
しかし、「遠慮する」と言った場合、多くは「よく考えた上で、何かをしない」ことを指します。

例1
  上司にすぐに連絡をとりたかったが、深夜だったので、電話するのは遠慮した

例2
  先輩 「今晩、A君と飲みに行くけど、君もこないか?」
  後輩 「すみません。今日はちょっと、遠慮しておきます」

 例1の「遠慮した」は、遅い時間帯であることを考えて電話しなかった」という意味です。
 例2の「遠慮します」は、誘いを断るときによく使いますね。本来、相手のことを色々考えて「○○しません」という意味ですが、実際には、自分は「○○したくありません」の婉曲な表現として使われています。

例3
  A 「どうぞ、遠慮なく召し上がってください」
  B 「すみません。それでは、遠慮なくいただきます」

「(どうぞ)遠慮なく」は、人に何かすることを勧めたり、物をあげたりするときによく使われる表現です。なぜ相手が何も言っていないのに、「遠慮なく」と勧めるのでしょうか。それは日本社会では「受け取る側は当然、遠慮する気持ちを持ち合わせているはずだ」と考えられているからです。

例4
  彼はとても遠慮深くて、周囲から好感を持たれている。
例5
  初対面でプライベートな質問ばかりするのは、無遠慮過ぎるんじゃないかな。

「遠慮深い人」というのは、控えめで、つつましい行動をする人、という意味の褒め言葉です。反対は「遠慮のない人」、または「無遠慮な人」で、もちろん悪い意味で使います。 「無遠慮」に近い言葉に、「ずうずうしい」や「あつかましい」という言葉がありますね。

例6
  経費で落ちると分かった途端に高い料理ばかり注文するなんて、本当にずうずうしいやつだな。

人が迷惑しているのに、平気で何かをしたり、ものを頼んだりする態度を「ずうずうしい」とか「あつかましい」と言います。
「遠慮深い」という言葉が褒め言葉に、「遠慮がない」が悪い言葉になるように、日本人はコミュニケーションをする上で、「遠慮」を重要なことだと考えています。
 それほど交流がない人から何かをもらうような場面では、とりあえず遠慮して断り、そこからさらに勧められて初めて「それでは遠慮なく…」と受け取るのが普通ですよね。みなさん、意識せずともできているはずです。
 また、日本人はよく「親しき仲にも礼儀あり」と言います。これは、どんなに親しい友人でも、相手の立場や都合を考えることはとても大切だということです。

 次回(第5回)では、引き続き「遠慮」について記していきます。

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