元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、 渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。 毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。
日常の生活や社会生活の中で、日本人が一番大切にしていると言ってもいい考え方が、「けじめ」です。 日本人は、小さい頃から家庭や学校で、「ちゃんとけじめをつけなさい」「けじめのある行動をしなさい」と「しつけられ」ます。 では「けじめ」とは何なのか、意味と語源から見ていきましょう。 〈意味〉 物と物の相違、区別。道徳や規範よって言動・態度に表れる区別、節度ある態度。〈語源〉 囲碁用語の「けち(結・闕)」(対極の終盤で決まらない目を詰め寄せること)からとする説、「けちえん(掲焉)」(くっきりと際立つさま、明らかなさま)からとする説、「分かち目」から転じたとする説など、諸説あるようです。いずれにしても …
日本特有の美意識である〝侘び寂び〟。 〈前編〉では〝侘び寂び〟という言葉の意味や日本人の感性を紹介しました。 「侘び」 とはつつましく、質素なものにこそ趣があると感じる心のことで、 「寂び」 とは時間の経過によって表れる美しさを指しますね。 〈後編〉では、もう少し掘り下げて考えていきましょう。 思想家であり美術史家、文人でもあった岡倉覚三(天心)(1863-1963)の著書 『The Book of Tae』 の中では、 「茶道の根本は〝不完全なもの〟を敬う心にあり」 と記されています。 “imperfect(不完全なもの)” という表現が侘びをよく表しており、英語で書かれた同書を通じ …
日本特有の美意識に、〝侘び寂び〟という言葉があります。 前編となる今回は、語源を確認しながら日本人の感性を考えていきましょう。 侘(わ)び 「侘」 とは本来、 「気落ちする」 「あれこれ考えて困り苦しむ」 「悲しみに嘆き暮れる」 といった心身の状態を表す言葉でしたが、いつしか〝不十分な在り方〟に美が見出されるようになり、不足の美を表現する新しい美意識へと変化していきました。 完全に整ってはいない様子は、人々に想像の余地を残します。 例えば、日本には 「月見」 という行事があります。満月はもちろん美しいのですが、日本人は三日月や新月、雲や霞に隠れた月にも美しさを見出し、これを愛でてきました。 …
日本人の特徴として、英語やフランス語、ドイツ語・イタリア語など、欧米の言語の発音を苦手とする人が多い傾向があります。この点に関して 「文法中心の学校教育に問題があった」 という意見もあるかと思いますが、本当にそれだけが理由でしょうか。 私はカンボジアで長く生活していた経験があり、ビジネスで使うのは英語です。意思疎通はできるのですが、何年たっても 「お前の英語は硬くて聞きづらい」 と文句を言われ続けました。私に言わせれば 「そっちの英語も語尾が消えて聞きづらい」 のですが、そこはグッと我慢です。 出身が北海道ということもあり、身近なロシア語も少しかじる程度に独習したのですが、「聞き取りにくい …
「本音と建前」の文化は日本だけのものと思われがちですが、そんなことはありません。程度の差こそあれ、他の文化圏にも存在します。 建前として、「本当はこうする(こうある)べき」 と言いつつ、本音では 「こうしたい(こうありたい)」という気持ちは、誰しも持ち合わせているものです。 あえて日本式な点を挙げるなら、「本音と建前」の2つがあることを否定しないということでしょうか。 建前と嘘は異なる 本音と建前の使い分けに慣れていない人は「建前=嘘」と考えがちですが、それは間違いですね。建前は嘘と違って、相手が不愉快な気持ちにならないよう配慮するために使われます。嘘は相手を陥れたり自分が得をしたりするため …