だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第15回】けじめ

 日常の生活や社会生活の中で、日本人が一番大切にしていると言ってもいい考え方が、「けじめ」です。
 日本人は、小さい頃から家庭や学校で、「ちゃんとけじめをつけなさい」「けじめのある行動をしなさい」と「しつけられ」ます。
 では「けじめ」とは何なのか、意味と語源から見ていきましょう。

〈意味〉
 物と物の相違、区別。道徳や規範よって言動・態度に表れる区別、節度ある態度。
〈語源〉
 囲碁用語の「けち(結・闕)」(対極の終盤で決まらない目を詰め寄せること)からとする説、「けちえん(掲焉)」(くっきりと際立つさま、明らかなさま)からとする説、「分かち目」から転じたとする説など、諸説あるようです。いずれにしても平安時代から使われてきた大和言葉になります。

 「けじめ」は、さまざまなところに見られます。
 たとえば外国人が驚くことのひとつに、年末のデパートにおけるディスプレイがあります。それまで各所にあったクリスマスツリーは、12月25日を過ぎたら一斉にお正月の門松に変わりますよね。これも、「けじめ」を重んじる日本人の感性と言えるでしょう。
 「けじめ」とは、基本的には 「区別をはっきりさせる」 ということです。特にTPO(時や場)や相手との関係をよく考えて、それにふさわしい態度や行動をとることを指します。

例1
  学ぶときは学ぶ、遊ぶときは遊ぶ。けじめのある生活をしなさい。

例2
  あの二人は業務中なのにおしゃべりばかりしていて、公私のけじめがない

 日本人は同じ人と話す場合でも、それが仕事の席なのか、プライベートな場面なのかを考えて、言葉づかいや態度を変えます。それが「けじめをつける」ということです。
 どんなに親しい友人や恋人でも、会社で仕事をするときには敬語を使い、ほかの同僚と同じように接しなければなりませんよね。プライベートで仲が良いからといって、仕事中に親しげな口調で話したり、たとえ上司だからといってプライベートな話題に触れたりしていると、周りの人に悪い印象を与えてしまうでしょう。 「けじめのない人」 の烙印を押されてしまってからでは、取り返しがつきません。
 人間関係の中で、けじめをつけることは非常に重要です。相手が自分より目上なのか目下なのかという上下関係、あるいは内の人か外の人か、男か女かなどの違いによって、言葉づかいや態度は変わってきます。
 たとえば仲のいい友人でも、もし、その人が仕事の上でお客さんになったら 「外」 の人と接するときの言葉づかいをしなければなりません。もし、その人が自分の上司になった場合は、目上の人に対する言葉づかいや態度で接する必要があります。 「友人はどんなときでも友人だ」 と思う人もいるかもしれませんが、時と場合によってちゃんと区別して考えること、これが「けじめ」です。
 日本人にとって 「けじめをつける」 ことは、決して相手との親しい関係を損なうことにはなりません。むしろ、けじめをつけることによって、相手をより尊重していることになるのです。

〈さらに深く!〉
 「けじめをつける」 という言葉には、「過失や非難の責任をはっきりさせる」 という意味もありますね。
 企業が不祥事を起こした際に、会社のトップや責任者が明白な形で責任を取る場合、「不祥事のけじめをつけて、役職を引く」 などと言います。ほとぼりが冷めた頃に素知らぬ顔で復職したり、肩書を変えて院政を敷こうとする不届き者も多いようですが。
 他には、「落としどころ」 や 「決着」 としての 「けじめ」 も存在します。


 上司: 「得意先に迷惑をかけたのだから、「けじめをつける」 ため坊主にして来い」

「令和の時代に何を言ってるのか」 とツッコミがあるかもしれませんが、それまで長髪だった人が頭を丸めると、「反省しているのだな」 という雰囲気は出ます。それで禊(みそぎ)が済んだと思われるのは困るのですが…。

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