だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第11回】本音と建前(後編)

 「本音と建前」の文化は日本だけのものと思われがちですが、そんなことはありません。程度の差こそあれ、他の文化圏にも存在します。
 建前として、「本当はこうする(こうある)べき」 と言いつつ、本音では 「こうしたい(こうありたい)」という気持ちは、誰しも持ち合わせているものです。
 あえて日本式な点を挙げるなら、「本音と建前」の2つがあることを否定しないということでしょうか。

建前と嘘は異なる
 本音と建前の使い分けに慣れていない人は「建前=嘘」と考えがちですが、それは間違いですね。建前は嘘と違って、相手が不愉快な気持ちにならないよう配慮するために使われます。嘘は相手を陥れたり自分が得をしたりするためにつくものなので、根本的に目的が異なるのです。
 「本音」とは嘘偽りのない本心、「建前」とは相手を思いやり本心を遠回しに伝える、表向きの気持ちです。相手の立場や気持ちを思いやり、配慮する考えが浸透している日本人は、ストレートに本音で話すことを避ける傾向にあります。そのため、ビジネスにおける交渉の場や友人同士の会話においても相手の気持ちを考え、本心を話すことを避け建前を使うことが多いのです。本音と建前には相手を気遣う気持ちが込められており、日本人らしい文化といえます。

〈さらに深く!〉
 日本では〝共感〟がとても大切にされます。お互いに内情を察し、考慮し合うのが、日本人のコミュニケーションですね。 「グループ、社会を中心に物事を考えること」が優先される傾向があります。私の妻の母国カンボジアも日本に近い思考形態を持っています。
 その対極にあるのが欧米寄りの思考、「自分を中心に、目的に向けて物事を考えること」 でしょう。
 欧米式の思考グループは、リーダーやヒエラルキーがあり、明確なルールに従って行動します。逆にルールにないことは個人で判断して行動することができるとも言えます。
 目的に向かって、物事をシンプルかつロジカルに理解するため、理想追求型で変化や成長に向いていると言えるでしょう。問題解決が得意ですが、欠点としては「理想」はリーダーの理想であり、〝強者〟のための社会になりがちな点でしょうか。現状維持も苦手ですね。

 日本式の思考グループに、リーダーは必要ありません。合議制で行われることがほとんどだからです。さらに〝空気〟で決められることもありますね。〝空気〟は過去の経験則や、グループ内外の環境など、複雑な要素で作られます。明確なルールがなくても秩序が保たれますが、ほとんどの行動が暗黙の了解に縛られます。
 現状維持には向きますが、最大の欠点は問題解決が苦手なことです。現状肯定型なので、問題そのものの認識が、弱いことも欠点でしょう。

 所属する地域や文化圏によって偏りは出ますが、人間とは本来的に、両方の思考形態を持ち合わせているのではないかと思います。

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