だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第10回】本音と建前(前編)

 日本人は、相手の立場や周りの状況を考えて、自分の感情を抑えたり、意見を言うのを遠慮したりします。

 「遠慮」については、以前の記事で紹介しましたね。
 「遠慮」はもともと、「相手の都合や迷惑をよく考える」ことを指します。 
 しかし、「遠慮する」と言った場合、多くは「よく考えた上で、何かをしない」ことを指します。
 ( 【第4回】遠慮(前編)より )

 みなさんも会議や行事など、多くの人を前にして意見を言わなければならない場面では、とりあえず誰も反対しないような無難な意見を言った経験があるのではないでしょうか。
 このように、誰もが賛成するような、公式的な意見・原則を「建前」と言います。
「建前」の反対語は「本音(=その人が本当に思っていること)」です。ビジネスなどにおいては、よくこの「本音と建前」が、使い分けられることがあります。

例1
  〇〇社が始める新規サービスは、建前では顧客のためと言っているけど、実際はデータ収集が目的のようだね。

例2
  会議に社長が来ると参加者は建前ばかりで、なかなか本音を言わないから困るんだよ。

 「日本人は会議で活発に意見を出さない」とよく言われます。建前ばかり出てくるような状況もよくありますね。
個人的な意見を述べ、意見の衝突が起きることを避けようとする気持ちがあるからでしょう。もちろん、「」を大切にしようとする精神性が働くからとも言えます。
 ところが、いつも「建前」ばかり言っていると、「あの人はいつになったら本音を言うんだ」と批判されることになります。また、自分の考え方を何度も変えたりすると、「あの人は建前をすぐ崩す」と信用されなくなります。
 建前ばかりでも、逆に本音のぶつけ合いだけでも、議論は進展しないでしょう。そこで、事前に参加者の意見を聞き、対立が表面化しないように調整を行い、会議が始まる前に大体の方向性を決めておくこともあります。 
 これは非常に日本的な方法で、「根回し」と言われているものです。本音と建前はビジネスの場面だけでなく、日常生活でも上手に使い分けられます。

例3
  先生 「ケンカしないで、仲よくしないといけませんよ」
  生徒 「そりゃそうだけど、ひどい悪口を言われたから……」

この例では、先生の発言が建前で、生徒の発言が本音です。

建前は、このように誰にも反対できないような当然のこと、原則的な意見なのです。

だから、日本語は面白い 
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