日本人の特徴として、英語やフランス語、ドイツ語・イタリア語など、欧米の言語の発音を苦手とする人が多い傾向があります。この点に関して 「文法中心の学校教育に問題があった」 という意見もあるかと思いますが、本当にそれだけが理由でしょうか。
私はカンボジアで長く生活していた経験があり、ビジネスで使うのは英語です。意思疎通はできるのですが、何年たっても 「お前の英語は硬くて聞きづらい」 と文句を言われ続けました。私に言わせれば 「そっちの英語も語尾が消えて聞きづらい」 のですが、そこはグッと我慢です。
出身が北海道ということもあり、身近なロシア語も少しかじる程度に独習したのですが、「聞き取りにくいから、(キリル文字で)書いてくれ」 とよく言われました。
さて、日本人はなぜ欧米の言語の発音が苦手なのでしょうか。それは発声のメカニズム(発語の仕方)が大きく異なるからです。
日本語の特徴
日本語は口元をわずかに動かすだけで、ほとんどの意思疎通が可能ですが、それは発語する位置が口先だからです。一方、欧米の言語は舌の付け根のほうで発語し、口内をかなり動かして言葉にします。
具体的にはどういうことでしょうか。
欧米の言語は、口内のあらゆる筋肉を動かさなければネイティブのような発音にはなりません。発語の際に顔(下半分)の表情筋を大きく動かすので、結果的に非常に豊かな表情になります。
一方、日本語は表情筋をほとんど動かさずに発語でき、それで十分に意思疎通ができてしまいます。韓国語や中国語と比較しても、圧倒的に表情筋を必要としません。だから、日本人は欧米人の発音を真似るのが苦手なのです。
長い歴史に根差している
欧米人は人と意思疎通をする際、常に顔の下半分を多様に動かして、豊かな表情を浮かべています。彼らはそれを意識的に行っているわけではありませんが、前述した言語の特性から、発語の際には表情筋がさまざまに動きます。このため、表情から喜怒哀楽が読み取りやすいのです。
これらは欧米の言語が話されてきた長い歴史に根差しており、彼らは人と話すとき、相手の目よりも口の周囲を見ることが習慣になっています。
このため、欧米人にとっては相手の感情や本音は顔の下半分から読み取るものなので、日本人の微笑み(目元だけ笑う、口角を少しだけ上げる 等)には 「何か裏が隠されているのでは」 と不安になるようです。
反対に、日本人はそれほど表情が豊かではないので、相手の口元ではなく目を見ることが多いです。 「目は口ほどに物を言う」 とは、あくまでも日本語の特性に根差したものなので、欧米では通用しない成句なのです。また、日本人は言葉が発せられた場面や状況から、相手の意図を汲み取ったり真意を読んだりしますね。
言葉が違うことで、意思疎通の方法も変わってくる点に面白さを感じます。
〈さらに深く!〉
赤ちゃんはどこを見て言葉を学ぶ?
表情に関する日本と欧米との差異は、以前から色々な研究者のテーマにもなっています。
米国で発表された論文によれば、コンピューターで作成された表情を日米の学生に見せて喜怒哀楽の感情を判定させたところ、日本の学生は目元を、米国の学生は口元を重視したという結果が出たそうです。
また、日英の生後7カ月の乳児を比較した最近の研究においても、人の表情を知覚する際、日本の乳児は目に注目するのに対し、英国の乳児は口に注目する傾向が見られたそうです。それが数カ月に渡って見てきた母親の表情によるものか、遺伝子に組み込まれた性向なのかは判明していませんが、これらの事柄からも大きな差異があることが分かりますね。