だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第9回】日本語 誤用クイズ

 日常生活において、知らず知らずのうちに間違った使い方をしている言葉がたくさんあります。
 間違った使い方は「誤用」といい、使用場面によっては思わぬ恥をかいたり、相手に反対の意味で受け止められる可能性もあります。
 正しい使い方・意味を把握していると、円滑なコミュニケーションが可能になります。
 今回は〝息抜き回〟として、誤用されやすい日本語をクイズ形式で出題。あなたは何問正解できますか?ぜひ挑戦してみてください。

問1
「敷居が高い」 という言葉は、どちらの使い方が正しい?

A:「あそこの料亭は政治家も来る店なので、敷居が高い」
B:「この前の飲み会で店主に迷惑をかけてしまったので、敷居が高い」

「敷居」とは和室の障子やふすまをはめ込むために溝が彫られた水平材を指します。そのため、出入りをするには必ず敷居をまたぐ必要がありますね。
本来なら敷居は床と同じ高さですが、それが高く感じるのはどうしてでしょうか。



正解は B です。
「敷居が高い」という日本語は、精神的な理由から訪問をためらう様子を表す言葉です。多くの人は「ハードルが高い」 「高級すぎる」という意味で使っていますが、これは誤用になります。



問2
「募金」 という言葉は、どちらの使い方が正しい?

A:「駅前で学生が呼びかけをしていたから、1000円ほど募金しました」
B:「募金の結果、100万円以上集まりました」

 困っている人を支援するために行う行為が、「募金」です。Aは「お金を出すこと」、Bは「お金を集めること」をそれぞれ「募金」と言っていますね。どちらの用法が正しいのか、漢字が持つ意味に注目してみましょう。



正解は B です。
支援のためにお金を出すことは「寄付」と言います。募金は「寄付を募る」行為ですから、「募金」とは対になる言葉になりますね。



問3
「役不足」 を正しく使用しているのはどちらの例文?

A:「〇〇社からヘッドハンティングされた彼女にとって、課長補佐では役不足だろう」
B:「私にとって今回の昇進は役不足ですが、精一杯頑張ります」

 「役不足」は、ビジネスシーンでよく使用される言葉ですが、誤用している人が多いように感じます。「役不足」に似た言葉に「力不足」という表現があることが、誤用の原因かもしれません。



正解は A です。
「役不足」と「力不足」の漢字は似ていますが、意味はまったく異なります。
「力不足」とは「役目を果たすには、能力・実力が足りない」という意味ですが、「役不足」では「能力に対して役目が不足している」という意味になります。
 謙遜のつもりで B のような言葉を発すると、相手には失礼に聞こえているので気を付けなければなりませんね。



問4
「煮詰まる」 の正しい意味はどちらの例文?

A:「議論が十分に交わされて結論が出ること」
B:「アイデアが出ず、議論が進まないこと」

「煮詰まる」は、煮物料理を作る様子を議論の進捗に当てはめて使う日本語になります。主にビジネスシーンで使用されますが、これも誤用の多い表現です。



正解は A です。
誤用によりネガティブなイメージをもたれがちな言葉ですが、本来の意味からは離れてしまっています。
「物事が進まない」という意味の「行き詰まる」と混同されてしまったり、料理が煮詰まって失敗するイメージが、誤用の原因ではないかと思います。



問5

「小春日和」 の正しい意味は?
A:穏やかで暖かい春の天気
B:穏やかで暖かい冬の天気

 問2では「漢字の持つ意味」に注目するようにと書きましたが、時には漢字にとらわれないことも大切です。



正解は B です。
 「小春」とは太陰暦で10月の異名で、太陽暦では11~12月頃にあたります。このため、「小春日和」が表すのは穏やかで暖かい冬の天気なのです。
 ちなみに、春の穏やかで暖かい天気は「春暖(しゅんだん)」と言います。
 日本語は「天気」を指す言葉がたくさんあります。例えば「雨」ひとつでも「小雨」「春雨」「小ぬか雨」「梅雨」「五月雨」……とキリがありませんね。はっきりとした四季を持つ、日本ならではの特徴だと言われています。



誤用の意味が定着した日本語も
 長く使われるうちに、誤用が正しい用法として定着したケースもあります。
たとえば、「姑息(こそく)」は「その場しのぎ」「間に合わせ」が本来の意味でした。しかし、「姑息なやり方」が「卑怯」「ずるい」と非難されるうちに、「姑息 = 卑怯」と考えられるようになったと言われています。

 日本語の誤用を知ることは、雑学的な知識が身につくだけでなく、相手が誤用を用いた時でも、スムーズに意図を読み取ることができるようになります。
 日本語教師の立場からは、「正しい日本語の用法を大切に」と言いたいところですが、相手の誤用を逐一指摘するのもコミュニケーション上では良くないですね。かえってコミュニケーションが取りにくくなる可能性もあるでしょう。

さて、みなさんは何問正解できたでしょうか。今回のクイズをきっかけに、日本語への興味がさらに湧いたという方がいるのであれば、幸いです。

次回(第10回)は、「本音と建前」について記していきます。

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