だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第6回】ごちそう (前編)

 「ごちそう」という言葉を聞いたとき、読者の方々はどんなイメージを持たれるでしょうか。
 寿司、てんぷら、すき焼き…私の想像力ではステレオタイプな料理名しか挙げられませんが、豪勢な食事や高級店での食事をイメージされる方が多いのではないでしょうか。
 人それぞれ思い浮かぶ品目は違えど、ハレの日のや特別な瞬間を演出する料理のニュアンスが強いと思います。
 今回は全3回に渡り、「ごちそう」について考えていきたいと思います。

 それでは、語源から見ていきましょう。
 「ごちそう」の“ちそう(馳走)”とは、本来「走り回ること」「奔走すること」を意味する言葉です。
 昔は大切な客人を迎える際、準備のために方々へ馬を走らせ、食材を調達する必要がありました。流通が整った現代とは違い、大変な労力がいる時代だったのです。
 その様子から「馳走」という言葉に「もてなし」の意味が含まれるようになり、丁寧を表す接頭語がついた「ご馳走」は、「もてなしのための豪華な料理」、あるいは「(食事を)ふるまう」を意味する言葉として定着したそうです。

「ごちそうさま」と「いただきます」
 また、江戸時代後半ごろには、食後のあいさつとして「ごちそうさま」が用いられるようになったと言われています。 寿司・天ぷら・うなぎ・蕎麦などの誕生により、外食文化が発展した時代にあたりますね。現代日本人の食文化の基本が形作られたこの時代に、食に関する風習も確立されたようです。
 「ごちそうさま」は、「ご馳走」に敬う気持ちを表現する「さま」をつけることで、自分のために奔走してくれたことへの感謝を伝える言葉となったのですね。

 食前のあいさつの言葉にも触れておきましょう。
 「いただきます」も感謝の言葉です。食事は食材の「いのち」を頂くことです。その「いのち」を大切にする気持ちが「いただきます」という言葉になりました。
 また、食材を育てた人、運んだ人、調理した人など、その食事を頂くにあたって関わったすべての人の「時間」を頂いたという意味も含まれています。

 これらの意味は、日本人なら子供のころに、どこかで一度は教わった経験があるはずです。何気なく使いがちな言葉ですが、きちんと意味を理解すると、感謝の気持ちが自然と湧いてきますね。
 稲作文化で、集団の中で協調・協働してきた日本人特有の感性が表れた言葉と言えるでしょう。
 筆者も今晩くらいは慣習としてではなく、その一皿にかけられた手間に感謝しつつ言葉にしたいと思います。

だから、日本語は面白い 
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