だから、日本語は面白い

元・日本語教師で、難関の日本語教育能力検定試験を一発合格した筆者が、
渡航先や外国人妻との生活の中で改めて発見した、日本語の難しさや面白さ。
毎回一つの言葉を取り上げ、その意味や用法、日本人の感性などに触れていきます。

【第3回】おかげさま

「おかげ(さま)」は寺社仏閣へ祈願に行き、良い結果に繋がったとき、神仏に感謝して使われる言葉でした。 しかし、現在ではさまざまな場面で使われています。

例1  
  先生 「○○さん、進学おめでとう」
  学生 「ありがとうございます。先生のご指導のおかげです」

 ただ「ありがとう」と感謝の気持ちを言うのではありません。「あなたのおかげで」と言い表したほうが、相手の行為が強調されるため、より嬉しく感じるものです。

 相手に対して感謝の心を持ち、表現することは、人と人の「つきあい」の中でとても大切なことです。日本人は日常の中で、こうした感謝の言葉を大切にしてきました。

 次の例はどうでしょう。日常でよく見かける場面かと思います。

例2
  A 「こんにちは。お元気ですか」
  B 「ええ、おかげさまで」

例3   
  A 「息子さんの体調はいかかですか」
  B 「おかげさまで、もうすっかり良くなりました」

 同じ「おかげさまで」という言葉ですが、使用場面が異なっていますね。あいさつの代わりに使われることや、相手が具体的に何かをしたわけではないのに使用することもよくあります。 この場合は、何かをしてもらったことへの感謝というより、相手の好意や親切に感謝していることを表しているのです。

〈さらに深く!〉
「おかげ」は良い結果が生まれた際、その要因となった対象に感謝の気持ちを表すのが本来の使い方です。 しかし、良くない結果や影響を受けた際には、不満や皮肉の意味を込めて使われることもあります。

  A 「C君が道を間違えたおかげで、5分で着くところを30分も歩かされちゃったよ」
  B 「あはは、大変だったね」

 この場合は、C君の「せいで」と言いたいところを、皮肉を込めて「おかげ」を使っているのですね。
 次回(第4回)では、「遠慮」という言葉を考えていきます。

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