和・作法の彩り

全日本作法会で20年以上、作法に携わり、企業や大学にてマナー研修を実施している筆者が送る日本の礼儀・作法に関するチャンネル。
一口に礼儀・作法といってもそこに隠されている、込められている日本の心、文化について発信していきます。

食べること、生きること

五観の偈

  • 功の多少を計り彼(か)の来処(らいしょ)を量(はか)る。
    ※この食事が目の前に出されるまでのすべての行程を考え、自然の恵みと関わった多くの人々の働きに感謝する。
  • 己が徳行(とくぎょう)の全欠を忖(はか)って供(く)に応ず。
    ※自身の行いが、尊い命と労力でできている食を頂くに値するか反省して、供養を受ける。
  • 心を防ぎ過(とが)を離るることは貪等(とんとう)を宗(しゅう)とす。
    ※心を清らかに保ち、誤りを避けるため、三毒の貪(むさぼり)瞋(いかり)痴(おろか)を持たないことを誓います。
  • 正に良薬を事とすることは形枯(ぎょうこ)を療(りょう)ぜんが為り。
    ※まさに食は薬であり、健康を保つために頂く。
  • 成道(じょうどう)の為の故に今この食(じき)を受く。
    ※仏の道を実践するため、この食事を頂きます。

上記は主に禅宗において、食事の前に唱えられる偈文(仏の教え)です。
僧の食事作法の一つですが、道徳的要素が含まれている文章であるため、広く引用されています。
修行僧は、食事においても「五観の偈」にみられるように、厳しい作法が要求されます。例えば、沢庵を噛む音もたてないというように。

食欲は人間の三大欲求の一つであり、最も強い欲だと考えられます。
自身の生存に直結しているからです。
しかし、そのために人間より弱いものの命を奪っていることになります。
それは人間のおごりであり、傲慢ともいえます。
それらを戒めるためにも、作法はあるのでしょう。

また、人は食べるということに、生きるため以上の目的を持つことがあります。
旨味を感じることは言うまでもなく、見た目も美しく、器との調和も料理のひとつと捉えます。
命を長らえるためだけに食べるのであれば、味付けや盛り付けを工夫する必要もありません。動物のように「えさ」として食べればよいのです。

災害などで日常が失われた場合、食べられるものであれば有難いと思い、味などは二の次になります。
しかし、人間は欲深いもので、普段はより美味しいものを求めているのです。
それは、何故でしょうか。
単なる空腹感を満たすだけでなく、それ以上に精神的な満足感を求めているのではないでしょうか。
目の前に、色彩も豊かな、芸術的な料理を出されると気持ちも華やぎます。
また、食材の特色を生かし、格別な味覚に出会うと、心が満たされ幸せな気持ちになります。
生きるために食べることが、食べるために生きることにもなるのです。

人類が誕生してから、人はほぼ毎日食べています。食材をそのまま口に入れることから、やがて火を使って調理することで、料理は進化していきました。
地域や国境を越えて交流することで、今までとは違う新しい味に出会うことができます。
発酵や調味料がさらに味覚を豊かにしてくれます。

豊かな食文化は、日々の生活に彩を与え、豊かな心を育て、人が持っている世界を広げてくれます。

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