【エリートビジネスマンから内装工事会社の社長へ】
目の前に現れた韓氏は短髪でＴシャツ、短パン姿。親しみやすい笑顔で話し始めた。事前にホームページで拝見した長髪のＩＴベンチャー経営者の風貌とは随分と違う。聞くとそのギャップを狙っているのだと言う。
京都での学生生活を経て㈱リクルートホールディングスに入社し、グローバル開発室長として、米国、欧州、東南アジアなど世界各地を駆け回り、数百億のＭ＆Ａを成立させてきたそうだ。年間３００フライトというから驚きである。
そんな韓氏の転機となったのが、これまでの人生、世界各国での経験を振り返った時である。
中でも「ドイツでは大工などの建設職人さんの地位が高く年収は１０００万円ぐらいあります。でも、技術は日本の方が上なんです」。これは、日本の建設職人の能力が正確に評価されていないからだと考えた。韓氏は力強く言葉を繋いだ。「公平に評価される会社を作ろうと思ったんです」。この思いを実現させたのがユニオンテック㈱である。氏はその後この会社をＭＢＯし、建設ＤＸのクラフトバンク㈱を立ち上げた。
【事務作業の負担を軽減すべく建設ＤＸに取組む】
工事会社向け経営管理システム「クラフトバンクオフィス」誕生のきっかけとなったのが買収した内装会社のユニオンテックである。同社の業務を一通り行う中で、事務作業の煩雑さを痛感した。アナログ作業が多く、一日の業務の３割ほどを事務作業に費やしたのだ。経営立て直しの一環として自社のＤＸ化を進め、業務改善を実現。これを自社のような専門工事会社に広めていこうと思い立った。建設業界でいわれる３Ｋの「きつい」とは、現場工事ではなく、帰社後の膨大な事務作業であると韓氏は指摘する。「建設ＤＸは大手で進む一方、専門工事会社では一向に進んでいません」。職人本来の仕事とは言い難い事務作業を大幅に削減することが、建設業界を支える裾野部分の人材流出防止に繋がると考えたのだ。
「クラフトバンクオフィス」は営業管理、予定管理、作業日程、勤怠等、主に紙で行われている作業をシステム化。３０００人を超える建設職人から課題を聞いて改善を進め、多くの職人が利用するＬＩＮＥとも連携するなど、使いやすさにこだわった。導入にあたり各社の事情に合わせたシステムを構築し、真のＤＸを実現するまで同社のコンサルタントが徹底的にサポートする。
【建設ＤＸのトップランナーとして】
工事会社向け経営管理システム「クラフトバンクオフィス」の導入により事務作業を大幅削減した会社から口コミが広がり、利用者は右肩上がりで増加。令和５年８月時点で39都道府県、37工種で導入されている。
評判は上々で、今後も「クラフトバンクオフィス」を全国に拡大し、専門工事会社向け建設ＤＸのトップランナーとして、圧倒的な生産性改善を実現したい構えだ。
【オンラインとオフラインの両輪で業界を活性化】
クラフトバンクには、ＩＴベンチャー出身の社員が多数在籍。同社サービスのユーザーである地方の建設会社などの社員をリモート出向社員として受け入れ、フルタイムでＤＸ教育プログラムを実施する。ＤＸの最前線で一定期間経験を積み、出向元に送り出した後、社内のＤＸ化をリードする人材として活躍してもらうことが目標だ。
また、同社は専門工事会社向けのビジネス交流イベント「職人酒場」を開催。コロナ禍を経てオンラインでの交流が定着しつつあるが、建設業界は現場主義である。直接顔を合わせて話を聞き、人となりを知ったうえで受発注したい。そんな業界の要望を汲んで毎週開催するリアルでのイベントは、『一夜で十年付き合える元請・協力会社が見つかる』がコンセプト。元々は同社が提供する建設工事特化型マッチングサービス「クラフトバンク」のユーザー向けにスタートしたイベントで、北は北海道、南は九州まで開催地が広がり、職人同士の出会いの場・仕事のマッチングの場として活用する人が増加しているそうだ。
【ＤＸイノベーションで「職人さんがちゃんと儲かる」建設業界へ】
若者のなり手不足に悩む建設業界は、実は将来性が高いと韓氏は話す。「今後、多くの仕事がＡＩに奪われると言われています。しかし、建設業界はそうではないと思うんです。１００年先も建築はあるし、職人も必要とされる」。今後、若年層を取り込むため、業界にはイノベーションが必要だと氏は指摘する。建設ＤＸを皮切りに働き方改革を進め、“ちゃんとやれば、儲かる”ようにする。加えて、世界に通用する職人技の凄みを伝えていく。日本における建設職人の地位を高めることと、建設業界をイノベーションのある業界にすることが韓氏の目標だ。
「建設業界を『職人さんがちゃんと儲かる』業界にしたいですね」。韓氏は、熱い言葉で締めくくった。
（社主 上中康司）
【企業情報】
会社名／クラフトバンク㈱
本社／東京都中央区日本橋久松町12－８プライム日本橋久松町ビル８Ｆ
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