建設経済新聞 出張所

辻井木材㈱ 代表取締役社長 辻井大氏【シリーズ 風貌~私の経営哲学~】

【令和5年、突然の発表】
「年始の集まりで父が交代宣言をしまして、〝聞いてないぞ〟と驚きましたよ」
 一週間後の総会、取締役会で正式に決議。ここに辻井木材3代目(明治20年創業時からは5代目)社長が誕生した。
「当然〝社長〟と呼ばれますが、私は先代たち、そして社員らの実績の上に立たせてもらっているだけです」
 気恥ずかしげにそう語る。
 祖父である先々代社長は市売りが大好きで周囲から愛される人柄だったという。その祖父から父の代に替わり、事業を拡大。川上だけでなく、川下向けに『プレカット工法(従来は手工具で墨付け・加工していた木材をCADを用い自動加工する技術。品質の均一化や工期の短縮、建築コスト・産廃の削減が期待できる)』を導入。当時はまだ、プレカット黎明期であった。

【コア事業となるまで】
 プレカットが主力事業となるまでには時間を要した。
 時代の流れは家づくりを変える。和風建築から洋風建築へ。自然木材から構造用集成材へ。そして、建築業界を震撼させた耐震偽装事件を機に集成材・設計技術が見直されるようになり、ようやくプレカットが光を浴びるようになったのだ。
 現在はプレカット材を使った施工が浸透・標準化しつつあり、辻井氏はトレンドを意識した事業展開を模索しているそうだ。

【今後の展開】
 国内メーカーの技術は均衡しており、機械導入だけではなかなか他社に差をつけられない現状。このため、同社はCADオペレーターの育成が重要と考えており、2~3年の時間をかけて丁寧な社内研修を実施。知識や経験を積ませ、深い理解に繋げている。
「マンツーマンで行っている育成指導には自負があります。CAD能力は加工精度に直結し、社の信頼に関わりますから」
 同社はまた、フンデガー社(ドイツ)の最新機種『ROBOT-MAX』を導入予定。国内メーカーの加工最大面を凌ぐ仕様に期待を寄せている。現在、各国企業から問い合わせがあり、入荷2年待ちだそうだ。
「事業共同体設立も視野にあります」
 ㈲日新製材所(主な原料供給先)、㈱七谷川木材工業社(府内初の中大断面集成材工場を建設中)(共に亀岡市)と同社を中心とした京都府内一貫体制を敷き、既存のサプライチェーンより踏み込んだ供給網を作りたいと意気込む。
「ドイツからの機械が届くまでには、現実味を伴わせてみせますよ」

【選んだ道】
 辻井氏の前職は銀行員。大学を卒業後、京都の銀行に勤めていたそうだ。入行から10年が経とうとする頃、父から連絡があった。
「何となく、察しはつきましたよ」
 どんな会社でも10年働けば景色が見えてくる。既に結婚もしていた。何でこのタイミングか、と思ったが〝これ以上長くいると、染まってしまうな〟とも感じてはいた。
 後に聞いた話では、父としては「年齢・社会経験を考えると〝今だ〟」という想いがあったそうだ。
「私も決心しましたよ」
 辻井木材㈱入社後は一営業担当としてスタートを切る。その後は営業に関わりつつ社全体の業務を学び、社長就任までは常務取締役として業務に邁進した。
 行員時代の経験・人脈等は今も活きているという。
「同年代の社長たちからは〝経営観が違う〟とよく言われますが、それが良いのか悪いのか」

【受け取ったバトン】
 入社10年目。こちらも節目の年となる年始に、父が突然の交代宣言。慌ただしい社長就任となった。
「最初の2、3ヵ月はバタバタ。4月になってから色々考える時間ができました」
 父から受け取ったバトンを、どう次へ渡すかを意識するようになったという。
「2人の息子はまだ幼いですから、20年、30年かけてバトンを渡す条件や環境を整えていきたいです。自分の代で終わらせたくないですから」

【若い世代へ】
「今春、新入社員の入社式で、初めて社長訓示をさせてもらいました」
 伝えたい想いは3つある。
「一つ目は〝積極性・自主性〟です。慣例に流されて惰性的になっては成長がありません。〝自分の可能性を自分で決めない〟ことも大切です。物事は『できる/できない』の択一ではなく『どうすればできるのか』の選択肢を残してほしいですね。最後に〝利他の心〟を持つことです。会社組織はたくさんの人との繋がりで成り立っていますから、周囲への気配り・思いやりは重要です」
 これは自社の若手だけでなく、すべての若者に伝えたいアドバイスだそうだ。

【編集後記】
 40代前半、若き新社長はエネルギーに満ちていた。創業時から続く歴史や先達の実績を大切にしつつ、時代の趨勢に沿った事業展開を模索している。
 低迷する新聞業界にある弊紙だが、昭和39年設立以来、京滋の建設情報をリードしてきた歴史がある。弊紙もまた〝常に新しい老舗新聞社〟でありたいものだ。
(本紙記者 佐々木雄嵩)

【企業情報】
会社名/辻井木材㈱
代表者/辻井大
本社/京都市中京区西ノ京南聖町13
℡/075-841-4386

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