全日本作法会で20年以上、作法に携わり、企業や大学にてマナー研修を実施している筆者が送る日本の礼儀・作法に関するチャンネル。 一口に礼儀・作法といってもそこに隠されている、込められている日本の心、文化について発信していきます。
日本料理において大事なことは、素材の味を壊さないことです。調理方法は、生、煮る、蒸す、揚げる、焼く、の五法があります。どの調理方法でも、素材本来の味を壊すような、濃い味付けはしません。調味料をできるだけ抑えるので「引き算の料理」と云われます。 濃い味で誤魔化さなければならない素材、要するにそのままでは美味しくない食材には批判的でしたので、質の良い素材を必要とされます。ちなみに、現代では日本料理として会席にも出される「天ぷら」は、江戸時代は新鮮さが失われた魚などに衣をつけて揚げていたので、長い間、格式ある日本料理には加えられませんでした。 料理においても季節感を大事にすることも、日本料理の …
人類の誕生から、「食」というのは途絶えたことがありません。「食」は風土、環境、宗教、民族性、歴史と密接に関わっています。特に日本は海に囲まれ、日本列島の中心には山脈が連なっています。地域によって差はあるものの、四季があり、豊かな自然に恵まれてきたので食べ物には不自由してきませんでした。 日本人の食に対しての考えも、欧米人とは違っているように思えます。それは食事の作法、特に食べ始める前と食べ終わった後に発する言葉に顕著に現れます。料理を前にして、お箸を取る前に「いただきます」と言い、お箸を置いた後には「ごちそうさまでした」と口にします。 おそらく英語には訳しにくい日本語になるでしょう。豊か …
数十年前ですが、作法会の親先生が「昨今は、公立の小中学で『天皇陛下』の言葉を出すことを嫌がられますが、しきたりや作法のほとんどが、皇室からきています。」と仰いました。まさしくその通りで、五節供や年中行事などの多くが皇室に由来しています。 皇室、公家社会でのしきたりや文化が武家社会にも伝わり、庶民にも広がっていきました。それは、高貴な方たちの暮らしや知恵に憧れ、少しでも真似たり、取り入れることで上流階級と云われる人々と同じような品性を持つようになれると考えたからかもしれません。 人々から憧れられる存在である方たちには、それなりの責任があります。生活、立ち居振る舞いなどを、人々はお手本として見 …
旧暦の8月15日のお月様を「中秋の名月」と称します。巷では「仲秋の名月」と記している場合もあります。「中秋」と「仲秋」。違いは何でしょうか。どちらが正しいのでしょうか。 「中秋」とは、秋のちょうど真ん中の日、8月15日を指します。 「仲秋」とは、季節の真ん中の月を指します。 仲春なら2月、仲夏なら5月、そして仲秋は8月となります。 「中秋の名月」は8月15日の月。 「仲秋の名月」は8月の名月となります。厳密に言うなら、「中秋の名月」が正しいとなります。しかし、時代とともに、区別も厳密ではなくなり、広辞苑(第4版)にも「中秋」と「仲秋」は同じ意味となっています。 ちなみに、今年の「中秋の名 …
9月9日は五節供で最後の節供、「重陽の節供」です。 「重陽」というのは、陰陽の考えから奇数を「陽」の数字となります。 9月9日は、1~10の間で、最も大きな奇数字「9」が重なることから「重陽の節供」と云われます。 現代(新暦)の9月9日は残暑厳しく、菊の花は咲いていませんが、 旧暦だと10月半ば。菊の花が満開の頃です。ゆえに、「重陽の節供」は「菊の節供」とも云われているのです。 古代中国では、この日に香りの強い木(山椒など)を持って山に登り、菊酒を飲んで邪気を祓ったとされています。この慣習が飛鳥時代に日本にも伝わり、平安時代には重陽節として宮廷の正式な行事となりました。 また、重陽の前 …