シネマティック・ロンダン

新作映画が出るたびに、どの映画を観ようか悩む人も多いのでは?シリーズ「シネマティック・ロンダン」では、フリーアナウンサーであり、映画パーソナリティーでもある津田なおみ氏による、おすすめ映画のレビューをいち早くご紹介します♪

『ファースト・マン』

「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍だ。」これは、人類初、アポロ11号で月面着陸を成し遂げたニール・アームストロング船長の有名な言葉です。当時、テレビの生中継を、固唾を飲んで見ていた方もいらっ …

「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍だ。」これは、人類初、アポロ11号で月面着陸を成し遂げたニール・アームストロング船長の有名な言葉です。当時、テレビの生中継を、固唾を飲んで見ていた方もいらっしゃるでしょう。

本作は、彼が果たした偉業を、歴史を変えた英雄としてではなく、妻と子がいる夫として、また、生と死の境を行き交い、計画の意義に葛藤する「一人の人間」として描いています。ここが、これまでに製作されてきた数多くのアポロ11号をテーマしにした作品とは、一線を画すところです。

本作は、1961年、アームストロング家の幼い娘が重病で亡くなる場面から始まります。彼は悲しみを抱えながら仕事に戻っていきます。そして彼のNASAでの訓練の日々、仲間との語らい、またアームストロング家の生活なども忠実に再現しながら、1969年の月面着陸までを描いていきます。

前人未踏の過酷な訓練、トラブルに巻き込まれ命を落としていく仲間たち。アームストロングも訓練中に何度も死にかけます。さらに追い打ちをかけるように、人命を危険にさらしてまで莫大な費用をかけて月に行く必要はあるのかとメディアが騒ぎ立てます。ジョン・F・ケネディ大統領が国家目標に掲げた月面着陸への道は、並大抵の精神力では立ち向かえません。それを痛感するシーンの連続です。

アームストロングは寡黙です。あまりはしゃいだり大声で笑ったりしません。本人自身が自分のことを語るのはあまり好きではなく静かな人だったそうで、演じるライアン・ゴズリングがそのあたりをうまく表現しています。

轟音を立てて火を噴き飛び立つ宇宙船、狭いコックピットの中で、極度の緊張ご感を伴って響く息づかい、そこに重低音の音楽が重なる濃密な質感。時折、アームストロングご本人が好きだったという楽器、テルミンで演奏された曲なども挟み込まれ、臨場感を創り出します。さらにIMAXカメラで撮影されているので、宇宙酔いとはこれかと思うような体感が押し寄せてきます。

ところが、後半は一転、彼が月に降り立った瞬間に全ての音が消え、限りない景色が目の前に広がります。アームストロングの視点からとらえた景色です。静けさだけで彼の偉業を伝えるのです。何とも言えない幸福感に包まれます。

そして、月の上で、アームストロングが地球から持ってきた「あるもの」を取り出した瞬間、ああ、そうか、この映画はアームストロングの心の内側、いわゆる内的宇宙を描いていたのだと理解しました。だから冒頭のシーンが重要だったのです。

そういえば、この作品の監督であるデイミアン・チャゼルは前作の「ラ・ラ・ランド」でも、外界を描きながら、結局は心の内側で起こっている世界を表現していました。人の心は宇宙と同じ。そんなことを感じさせる深遠な作品です。

2月8日から全国公開。

タイトル:『ファースト・マン』

公開:2019年2月8日(金)TOHOシネマズ 梅田他 全国ロードショー 

配給:東宝東和

写真用クレジット:©Universal Pictures

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